『宇宙ビジネスの衝撃――21世紀の黄金をめぐる新時代のゴールドラッシュ』 大貫 美鈴

 

宇宙ビジネスの衝撃――21世紀の黄金をめぐる新時代のゴールドラッシュ

宇宙ビジネスの衝撃――21世紀の黄金をめぐる新時代のゴールドラッシュ

 

 

今、宇宙ビジネスが熱い。

アマゾン創業者のジェフ・ベゾスは「ブルーオリジン」を、テスラで有名なイーロン・マスクは「スペースX」を立ち上げており、さらにグーグルやフェイスブックマイクロソフト、アップルといった錚々たる企業が宇宙ビジネスに参入している。

本書は大企業からベンチャー企業まで、昨今の宇宙ビジネスの大きな潮流をわかりやすくまとめた良書である。
とても分かりやすい語り口で書かれており、私のような宇宙初心者でもすらすらと読み進めることができた。

そもそも上記のようなIT企業が宇宙ビジネスに参入しているのはなぜなのだろうか。
著者はそれを"宇宙をインターネットの延長として見ている"(p3)からだと語る。

 "端的にいえば、宇宙にネットワークを張り巡らせることで、地球のデータが集まりやすくなる。「ビッグデータ」を集める手段、そしてグローバルにつなぐ「コネクティビティー」の手段として活用できるのです。" (p42)

 「宇宙ビジネス」と言ってももちろんいろいろあるわけだが、著者は基本的な知識として、「場所の話」をわかりやすく説明してくれている。

"「場所」には大きく分けて3つあります。「低軌道」「静止軌道」「深宇宙」です。" (p73) 

 地球から遠い順に言うと、まずは「深宇宙」である。月や小惑星、火星、それ以遠のことをいう。月面基地開発や火星移住計画など、民間企業の参入により開発が活発化している。

次に「静止軌道」がある。赤道上36,000キロの軌道で、1980年代から90年代にかけて、各国が通信衛星放送衛星を打ち上げた。「気象衛星ひまわり」もここを周回している。

そして2000年以降に急速に商業化が進んだのは「低軌道」である。宇宙と定義される高度100キロを超えたところから2,000キロあたりまでのエリアを指す。高性能な小型衛星によりさまざまな事業化や利用が進み、小型衛星を打ち上げるロケット開発なども加速している。

 

前に読んだ『宇宙の覇者』でもそうだったが、本書でもイーロン・マスクジェフ・ベゾスが手掛ける宇宙ビジネスについて記述されている。性格もやり方も大きく異なる二人だが、共通している点がある。

"二人に共通しているのは、まずは輸送機を安くつくり、宇宙へのアクセシビリティを高めようとしていることです。宇宙輸送コストを下げることで、その先に潜む無限のマーケットへの扉が開かれるのです。" (p34)

イーロン・マスクは2016年9月に「火星移住計画」を発表している。今後10数年以内に地球と惑星との間で数千人を輸送する事業をスタートさせ、その後約40年から100年後には、火星を100万人が暮らし、自給自足できる居住地にするという。

一方のジェフ・ベゾスも「宇宙に100万人が住んで、100万人が働く」と言っている。つまり宇宙に経済圏を広げるということである。二人とも、ビジョンを達成するためにはまずは低コストで宇宙へのアクセスができるようにすることが重要だと考えているようだ。

やはり宇宙ビジネスにおいて、この二人の動きからは目が離せない。

 

さて、この本の著者は大貫 美鈴さん。大学卒業後、清水建設に入社して「宇宙開発室」に配属され、「国際宇宙大学」の事務局を担当。さらに清水建設を退職後はご主人の留学に同行してアメリカに渡り、宇宙関連の仕事を続けることに。さらに帰国後はJAXAに入社して、その後宇宙ビジネスコンサルタントとして独立して今に至るとのこと。偶然が偶然を呼び宇宙分野で経験を積み、こうやって本まで出すなんてすごいなあ。

 

宇宙ビジネスの基本的な事項がとてもわかりやすくまとめられた良書である。ぜひ一読をおすすめしたい。