『トリノトリビア 鳥類学者がこっそり教える野鳥のひみつ』川上 和人 他

 

トリノトリビア 鳥類学者がこっそり教える 野鳥のひみつ

トリノトリビア 鳥類学者がこっそり教える 野鳥のひみつ

 

 Honzでも大絶賛されている川上和人氏の著書を初めて読んだ。何冊か面白いと評判の本があるが、僕に鳥についての知識がまったくなかったのでまずは身近な鳥のことから知ってみたいと思い、『トリノトリビア』を選んだ。著者は「はじめに」で言う。

"図鑑を読むと、鳥のことはすべてわかっているような錯覚に陥る。しかし、これは錯覚だ。なにしろ図鑑をつくる側の鳥類学者が言うのだから間違いない。空を自由に飛ぶ鳥の生活の全容を捉えるのは不可能である。身近なスズメやツバメですら、いまだ謎に満ちた存在なのだ。" (p2)

空を縦横無尽に飛び回るし、行動範囲も驚くほど広いし、鳥のことをすべて知るというのはとても難しいことなのだろうと思う。そんな中、この本では見開き2ページごとに鳥に関するトリビアを紹介してくれている。見開きの左側には川上氏をはじめとする鳥類学者による解説があり、右側には鳥の特徴をうまく捉えたマツダユカさんの漫画が載っている。

僕がいちばん興味を持ったのは、渡り鳥のことである。

"鳥には子育てをする「繁殖」と、冬を過ごす「越冬地」の間を移動する「渡り」をするものがいます。そうした渡り鳥には、ツバメのように春から秋までを繁殖のために日本で過ごし、暖かい南の国で越冬する「夏鳥」と、反対に多くのカモ類のように冬に越冬のためにやってきて、繁殖は日本より北の国で行う「冬鳥」がいます。渡りをする鳥たちは、ひなを育てるのに、また冬を越すのに十分な食料を効率よく手に入れるために移動すると考えられています。" (p86) 

渡り鳥たちがどこから来てどこへ行くのか、まだまだわかっていないものもあるようだが、冬鳥のコハクチョウは、北海道とロシアの北極圏の間の約3,000kmを旅し、夏鳥のハチクマは日本とインドネシアの間の約10,000kmを旅するという。え、そんなに長い距離を移動するの??というのが正直な感想だ。僕たちがふだん目にする鳥たちは、実はものすごい遠くから来ているのかもしれない。わざわざそこまで長い距離を旅する必要があるのだろうかというのが気になるところだ。

さらに渡り鳥についてもう一つ。

"渡り鳥"は、昼は太陽、夜は星の位置から、自分の位置を知るといわれています。最近では、渡り鳥のなかには地磁気を視覚で見ているものもいるとする論文も発表されました。" (p151) 

鳥、どんだけすごいんだ。。

さて、この本を監修している川上和人氏は、『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ』『鳥類学者無謀にも恐竜を語る』などの名著がある。なんだかものすごく面白いらしい。ぜひとも近いうちに読んでみよう。

 

 

鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。

鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。

 
鳥類学者 無謀にも恐竜を語る (新潮文庫)

鳥類学者 無謀にも恐竜を語る (新潮文庫)

 

『人類、宇宙に住む 実現への3つのステップ』ミチオ・カク

 

人類、宇宙に住む: 実現への3つのステップ

人類、宇宙に住む: 実現への3つのステップ

 

ここ最近宇宙ビジネス関連の本を何冊か読んできたが、ミチオ・カクという科学者による最先端科学の知見から書かれた本書に行きついた。なかなか分厚い本だったので読み通せるかちょっと心配だったが、確かによくわからないなあと思う部分も多少はあったものの、一般読者向けにかみ砕いて書かれており、とても面白く読むことができた。

話の出発点は、地球は様々な脅威にさらされており我々人類は永久に地球に住み続けることはできないということである。

"地球の壮大な生命史は、厳しい環境に直面した生物が必然的に3つの運命のどれかに行き着くことを明らかにしている。その環境から出ていくか、環境に適応するか、滅びるかだ。" (p12) 

数十年のスケールでは、地球温暖化核兵器、資源枯渇の問題などがある。数千年のスケールでは、次の氷河期が始まる。また、数百万年のスケールでは、65000年前に恐竜を滅ぼしたレベルに近い、小惑星や彗星の衝突が起こるおそれがあるというのだ。さらに、それらの脅威をすべて避けられたとしても、今から50億年後には太陽が膨張して赤色巨星となり地球を覆いつくしてしまう。

やや乱暴ではあるが本書をざっくりと要約すると、以下のような流れで議論が構成されている。

太陽に寿命がある
→人類は永久には地球に住み続けられない
→地球以外に住む場所を見つける必要がある
→宇宙へのアクセスのための安定的な手段の構築
テラフォーミングによる居住環境の構築
人工知能(AI)を搭載したロボット開発により居住地や基地の建設
→太陽系外への移動のため、レーザー推進によるナノシップと呼ばれるようなスターシップの開発
→何世代にもわたる移動を可能にするための「不死化」や人体改造、さらには脳のデジタル化

この本が面白いのは、多岐にわたるテーマが書かれているが、太陽に寿命があって人類は永久には地球に住み続けられないという出発点からはじまり、話がすべてつながっているところだと思う。さらに、一つひとつの話題が最新の科学的見地から考察されており、実現性を踏まえた解説をしてくれているというのも興味深い。

また、『スターウォーズ』『スター・トレック』などの映画やアイザック・アシモフファウンデーション』、オラフ・ステープルドン『スターメイカー』などの小説を引き合いに出して、空想と現実を比較するところも面白い。著者がMIT卒のNASAの科学者かつ受賞歴のあるSF作家であるジェフリー・ランディスにインタビューした際、次のような話を聞いたという。

"SFは遠い未来に思いを馳せられるからすばらしい、(中略)そして物理学は地に足をつけさせてくれるのだ" (p193) 

SF小説ってこれまであまり読んだことがなかったけれど、ぜひとも読んでみたいなと思わせてくれた。(巻末に推薦図書リストがあり、前述の『ファウンデーション』や『スターメイカー』はリストに載っていた。)

著者のカク氏は、科学の伝道師にしてエンターテイナーであり、宇宙の未来を描いた『パラレル・ワールド』、科学技術の未来を描いた『サイエンス・インポッシブル』「2100年の科学ライフ』、心の未来を描いた『フューチャー・オブ・マインド」など、面白そうな著書がたくさんある。YouTubeにも多数インタビューがアップされているようで、どれも興味深い。他の著作にもぜひまたチャレンジしてみたい。

『子どもが幸せになることば』田中 茂樹

子どもが幸せになることば

子どもが幸せになることば

 

この本、「はじめに」がとてもいい。「はじめに」だけでも一読の価値ありだろう。特に幼い子供がいる親にとっては。

冒頭で著者は、
出木杉くん(ドラえもん
・カザマくん(クレヨンしんちゃん
・カツオ(サザエさん
・まる子(ちびまる子ちゃん
のうち、だれが好きかと問う。
多くの人は、カツオやまる子を選ぶのではないだろうか。しかし、いざ自分の子供のこととなると、出木杉くんやカザマくんを目指してあれやこれや習わせたり、ドリルをやらせてみたりしてしまう親が多いんじゃないかと思う。自分も娘が2人いるが、どうしても子どものためにと、いろいろしてあげたくなってしまう。

著者は言う。

"子どもはもともと元気な存在です。元気であれば、「幸せになるためにどうしたらいいか」を、自分で探して動き始めます。" (p3) 

親は自分なりによく考えて、育児本やネットの情報を参考に子どもにとってベストなことをしてあげたくなってしまうものだが、そんなにあれこれしてあげる必要はないのである。唯一してあげるべきなのは、「子どもを元気でいさせてあげること」だろう。そうすれば子どもは自分で考えてやっていくのだ。

考えてみれば自分も子どもの頃は「別に親にやってもらわなくても自分でやるし」と思っていたのではないだろうか。もちろん両親がいろいろとやってくれたことはとても感謝しているが、子どものときに持っていた子どもの心を忘れないようにしたいと改めて思った。

そしてもう1つなるほどと思ったことがある。

"育児はそれ自体が目的であり、手段ではないということ。子どもと過ごすこと自体が、とても贅沢で幸せなことであるということです。" (p4) 

 自分もそうなのだが、「将来〇〇な大人になれるように△△する」「小学校で有利になれるように〇〇する」「学力を上げるために〇〇する」というように、何かの目的を達成するために育児をするという考え方に多くの親がなっているのではないだろうか。そうではないのである。育児それ自体が目的なのである。親は育児そのものを思う存分楽しめばいいのだ。オムツを変える。離乳食をあげる。絵本を読んであげる。幼稚園に送っていく。などなど、あげればきりがないが、すべて育児だろう。そういう行為そのものがとても贅沢で幸せなことなのだ。

著者は「はじめに」の最後で言う。

"子どもの生活のすべてを親が知っている。
子どもがいつも「お父さん」「お母さん」と呼びかけてくれる。
そういう日を懐かしむ日が、すぐにやってきます。
いま、幼い子どもといられる短い期間を、ぜひ大切にすごしてください。" (p11)

 今のこの瞬間を、思う存分楽しもうと改めて思った。

『Mortal Stakes』Robert B. Parker (邦題『失投』)

 

Mortal Stakes (Spenser)

Mortal Stakes (Spenser)

 

Robert B. Parkerの『Early Autumn』(邦題『初秋』)は、自分の中でベスト10に入る大好きな小説で、他のParkerの本も読んでみたいとずっと思っていたのだが、なかなか読めずに何年も経ってしまった。全部で39作あるスペンサーシリーズで自分にとって2作目として『Mortal Stakes』(邦題『失投』)を選んだ。

やはりRobert B. Parkerはおもしろい。なんというか、雰囲気がかっこいいのである。

ボストン・レッドソックスのエースであるマーティ・ラブは、とある家族の秘密をネタに八百長を強いられる。家族をとるか、野球をとるか、答えのない問いに直面する。そこでスペンサーがマーティにかけた言葉がまたかっこいい。

Grow up, Marty," I said. "The world's not all that clean. You do what you can, not what you oughta." 
(訳:「大人になれよ、マーティ」と私は言った。「世の中はすべてがそんなにきれいなものばかりじゃない。すべきことをやるんじゃない。できることをやるだけだ。」)

僕の英語理解力がないからか、スーザン・シルヴァマンとブレンダ・ローリングそれぞれのスペンサーとの関係性が今ひとつ理解できなかったのだが、ブレンダとの関係を指してスペンサーが言った言葉もまたかっこいい。

"Maybe continuity is better than change." 

(訳:変化よりも継続の方がたぶんいい。)

もう一つかっこいいなと思うのは、ところどころ出てくる食事のシーンだ。一緒に食事を取る相手との関係性やスペンサーの心理が食事に反映されていて、それがまたかっこいいのだ。

またちょくちょくスペンサーシリーズを読んでいきたいと思う。

『宇宙ビジネスの衝撃――21世紀の黄金をめぐる新時代のゴールドラッシュ』 大貫 美鈴

 

宇宙ビジネスの衝撃――21世紀の黄金をめぐる新時代のゴールドラッシュ

宇宙ビジネスの衝撃――21世紀の黄金をめぐる新時代のゴールドラッシュ

 

 

今、宇宙ビジネスが熱い。

アマゾン創業者のジェフ・ベゾスは「ブルーオリジン」を、テスラで有名なイーロン・マスクは「スペースX」を立ち上げており、さらにグーグルやフェイスブックマイクロソフト、アップルといった錚々たる企業が宇宙ビジネスに参入している。

本書は大企業からベンチャー企業まで、昨今の宇宙ビジネスの大きな潮流をわかりやすくまとめた良書である。
とても分かりやすい語り口で書かれており、私のような宇宙初心者でもすらすらと読み進めることができた。

そもそも上記のようなIT企業が宇宙ビジネスに参入しているのはなぜなのだろうか。
著者はそれを"宇宙をインターネットの延長として見ている"(p3)からだと語る。

 "端的にいえば、宇宙にネットワークを張り巡らせることで、地球のデータが集まりやすくなる。「ビッグデータ」を集める手段、そしてグローバルにつなぐ「コネクティビティー」の手段として活用できるのです。" (p42)

 「宇宙ビジネス」と言ってももちろんいろいろあるわけだが、著者は基本的な知識として、「場所の話」をわかりやすく説明してくれている。

"「場所」には大きく分けて3つあります。「低軌道」「静止軌道」「深宇宙」です。" (p73) 

 地球から遠い順に言うと、まずは「深宇宙」である。月や小惑星、火星、それ以遠のことをいう。月面基地開発や火星移住計画など、民間企業の参入により開発が活発化している。

次に「静止軌道」がある。赤道上36,000キロの軌道で、1980年代から90年代にかけて、各国が通信衛星放送衛星を打ち上げた。「気象衛星ひまわり」もここを周回している。

そして2000年以降に急速に商業化が進んだのは「低軌道」である。宇宙と定義される高度100キロを超えたところから2,000キロあたりまでのエリアを指す。高性能な小型衛星によりさまざまな事業化や利用が進み、小型衛星を打ち上げるロケット開発なども加速している。

 

前に読んだ『宇宙の覇者』でもそうだったが、本書でもイーロン・マスクジェフ・ベゾスが手掛ける宇宙ビジネスについて記述されている。性格もやり方も大きく異なる二人だが、共通している点がある。

"二人に共通しているのは、まずは輸送機を安くつくり、宇宙へのアクセシビリティを高めようとしていることです。宇宙輸送コストを下げることで、その先に潜む無限のマーケットへの扉が開かれるのです。" (p34)

イーロン・マスクは2016年9月に「火星移住計画」を発表している。今後10数年以内に地球と惑星との間で数千人を輸送する事業をスタートさせ、その後約40年から100年後には、火星を100万人が暮らし、自給自足できる居住地にするという。

一方のジェフ・ベゾスも「宇宙に100万人が住んで、100万人が働く」と言っている。つまり宇宙に経済圏を広げるということである。二人とも、ビジョンを達成するためにはまずは低コストで宇宙へのアクセスができるようにすることが重要だと考えているようだ。

やはり宇宙ビジネスにおいて、この二人の動きからは目が離せない。

 

さて、この本の著者は大貫 美鈴さん。大学卒業後、清水建設に入社して「宇宙開発室」に配属され、「国際宇宙大学」の事務局を担当。さらに清水建設を退職後はご主人の留学に同行してアメリカに渡り、宇宙関連の仕事を続けることに。さらに帰国後はJAXAに入社して、その後宇宙ビジネスコンサルタントとして独立して今に至るとのこと。偶然が偶然を呼び宇宙分野で経験を積み、こうやって本まで出すなんてすごいなあ。

 

宇宙ビジネスの基本的な事項がとてもわかりやすくまとめられた良書である。ぜひ一読をおすすめしたい。

『MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ』日高 洋祐他

 

MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ

MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ

 

読了日:2019年3月12日
おすすめ度:★★★☆☆

最近よく聞く略語の1つにMaaS (Mobility as a Service、マース)がある。

"MaaSとは、従来のマイカーや自転車などの交通手段をモノで提供するのではなく、サービスとして提供する概念だ。「あなたのポケットにすべての交通を」というキャッチフレーズが世界中で共感を呼び、スマートフォン1つでルート検索から予約、決済までが行え、自分の好みに合った移動手段や移動パターンが自由に選択できる。まさに「移動の所有から利用へ」の流れを1つのパッケージとして商品化した、究極のモビリティサービスがMaaSである。" (p20)

本書は、MaaSとはそもそもどういうものか、そしてなぜそれほどまでに注目されているのかを、豊富な事例と共に紹介した本である。
日本国内に限らず、海外の動向もとても丁寧に説明されており、MaaSの概要を知ることができる。

私はこれまでなんとなく見聞きしたことがあるだけで、MaaSとは何なのかほとんど知らなかったが、この本を読んでその概要を知ることができ、今後の世の中の動きを見ていく上で重要になるテーマの1つだと感じた。

なぜ今、MaaSがそれほど注目されているのだろうか。

"MaaSが注目されるのは、手付かずのフロンティアであるモビリティサービスの分野においてMaaSオペレーターのポジションを握れば、ユーザーに一番近いところを支配する、モビリティのプラットフォーマーになれると期待されているからだ。
モビリティサービス市場は、GAFAに侵略されていないうえ、コネクテッドカーや自動運転など「100年に一度」の技術革新が実現しようとしている市場だから、ここでプラットフォーマーのポジションを築いておけば、間違いなく将来的な成長を期待できる。" (p114)

Googleは検索サービスの世界を制した。
Amazonは小売りの世界を制した。
FacebookSNSの世界を制した。
Appleスマホのハードウェアの世界を制した。

MaaSの世界は、まだGAFAが十分取り込めていない領域であり、まだまだプラットフォーマーとしての狙うチャンスが残されているというわけである。
自動車メーカーや鉄道会社だけでなく、UberLyftなどの配車サービスや、自治体、通信サービス会社など、全世界でプラットフォーマーの地位を狙った熾烈な競争が繰り広げられている。

日本でも、トヨタソフトバンクが2018年10月に共同出資でMONET Technologiesを立ち上げ、MaaSビジネスに本格参入している。
残念ながらフィンランドなどのMaaS先進国と比べると日本は遅れているようであるが、今後どのようにMaaSが私たちの移動の在り方を変えていくか、だれがプラットフォーマーとしての地位を確立するのか、引き続き注目していきたい。

 

『宇宙の覇者 ベゾスvsマスク』クリスチャン・ダベンボート

 

宇宙の覇者 ベゾスvsマスク

宇宙の覇者 ベゾスvsマスク

 

読了日:2019/5/9

おすすめ度:★★★☆☆

 

1969年にニール・アームストロングらが月を歩いてから50年が経とうとしている。
この50年は残念ながら宇宙飛行の長い停滞、あるいは後退の時代と言われている。
しかし、そこに風穴を開けようとしているのが、スペースXのイーロン・マスクであり、ブルーオリジンジェフ・ベゾスである。
本書は、マスクやベゾスといった、「宇宙の覇者」として名乗りを上げている者たちの歩みと展望を記した本である。 

宇宙と聞くとNASAがいちばんに頭に浮かんでくるのは私だけではないだろう。
ところが、実はNASAの活動は長い停滞期にあるようだ。

 "アポロ計画後、歴代の大統領は宇宙への偉大な冒険を何度となく約束した。
(中略) しかし、何年経っても、何十年経っても、NASAは地表からわずか400キロの地球低軌道上にある国際宇宙テーションにしか人を送っていなかった。
まるでコロンブスが新世界を発見後、誰もそのあとに続こうとしなかったようなものだ。" (p224)

NASAが停滞期にあるとは言っても、一民間企業がこれまで国家が担ってきたような事業を行うのは並大抵のことではない。
幾多の困難を乗り越える必要があったし、莫大な資金が必要であった。

 著者はマスクを「兎」、ベゾスを「亀」にたとえる。 

"ふたりがスタートラインに並び、号砲が鳴らされたとき、先に飛び出したのは兎だった。
突き進め。限界を打ち破れ。
(中略)いっぽう亀の歩みは遅かった。
それでも一歩一歩、着実に前進を続けた。
ゆっくりはスムーズ。スムーズは速いと静かに唱えながら。" (p379)

本書ではマスクとベゾス、この対照的な2人の宇宙ビジネスにおける覇権争いが
ドラマチックに描かれている。
競争こそが彼らの意欲に火をつけ、宇宙ビジネスの発展の原動力となっているのである。

しかし、この競争はまだ始まったばかりである。
これから何年続くか、何十年続くか分からない、長い長い競争である。
その競争をリアルタイムで見届けるためのバックグラウンドを理解することができとても勉強になった。
この二人の動向には今後も注目していきたい。

最後にもう1つ興味深いなと思ったエピソードを紹介する。

"高校時代のベゾスのガールフレンドがあるインタビューで、ベゾスは宇宙企業の設立資金を稼ぐためにアマゾンを創業したのだと話していた。
2017年5月の水曜日に行われた今回のインタビューで、ベゾスはそれを
「ある程度はほんとうだ」と認めた。" (p350)

高校時代から宇宙事業への挑戦を見据え、莫大な資金を用意するためにアマゾンを創業したということか。

アマゾンを通過店にして、さらにその先の目標に置くくらい、宇宙というのは魅力的なものということなんだろう。

この先のマスクとベゾスを中心として展開していくであろう宇宙開発の動向に、これからも注目していきたい。