『人類、宇宙に住む 実現への3つのステップ』ミチオ・カク

 

人類、宇宙に住む: 実現への3つのステップ

人類、宇宙に住む: 実現への3つのステップ

 

ここ最近宇宙ビジネス関連の本を何冊か読んできたが、ミチオ・カクという科学者による最先端科学の知見から書かれた本書に行きついた。なかなか分厚い本だったので読み通せるかちょっと心配だったが、確かによくわからないなあと思う部分も多少はあったものの、一般読者向けにかみ砕いて書かれており、とても面白く読むことができた。

話の出発点は、地球は様々な脅威にさらされており我々人類は永久に地球に住み続けることはできないということである。

"地球の壮大な生命史は、厳しい環境に直面した生物が必然的に3つの運命のどれかに行き着くことを明らかにしている。その環境から出ていくか、環境に適応するか、滅びるかだ。" (p12) 

数十年のスケールでは、地球温暖化核兵器、資源枯渇の問題などがある。数千年のスケールでは、次の氷河期が始まる。また、数百万年のスケールでは、65000年前に恐竜を滅ぼしたレベルに近い、小惑星や彗星の衝突が起こるおそれがあるというのだ。さらに、それらの脅威をすべて避けられたとしても、今から50億年後には太陽が膨張して赤色巨星となり地球を覆いつくしてしまう。

やや乱暴ではあるが本書をざっくりと要約すると、以下のような流れで議論が構成されている。

太陽に寿命がある
→人類は永久には地球に住み続けられない
→地球以外に住む場所を見つける必要がある
→宇宙へのアクセスのための安定的な手段の構築
テラフォーミングによる居住環境の構築
人工知能(AI)を搭載したロボット開発により居住地や基地の建設
→太陽系外への移動のため、レーザー推進によるナノシップと呼ばれるようなスターシップの開発
→何世代にもわたる移動を可能にするための「不死化」や人体改造、さらには脳のデジタル化

この本が面白いのは、多岐にわたるテーマが書かれているが、太陽に寿命があって人類は永久には地球に住み続けられないという出発点からはじまり、話がすべてつながっているところだと思う。さらに、一つひとつの話題が最新の科学的見地から考察されており、実現性を踏まえた解説をしてくれているというのも興味深い。

また、『スターウォーズ』『スター・トレック』などの映画やアイザック・アシモフファウンデーション』、オラフ・ステープルドン『スターメイカー』などの小説を引き合いに出して、空想と現実を比較するところも面白い。著者がMIT卒のNASAの科学者かつ受賞歴のあるSF作家であるジェフリー・ランディスにインタビューした際、次のような話を聞いたという。

"SFは遠い未来に思いを馳せられるからすばらしい、(中略)そして物理学は地に足をつけさせてくれるのだ" (p193) 

SF小説ってこれまであまり読んだことがなかったけれど、ぜひとも読んでみたいなと思わせてくれた。(巻末に推薦図書リストがあり、前述の『ファウンデーション』や『スターメイカー』はリストに載っていた。)

著者のカク氏は、科学の伝道師にしてエンターテイナーであり、宇宙の未来を描いた『パラレル・ワールド』、科学技術の未来を描いた『サイエンス・インポッシブル』「2100年の科学ライフ』、心の未来を描いた『フューチャー・オブ・マインド」など、面白そうな著書がたくさんある。YouTubeにも多数インタビューがアップされているようで、どれも興味深い。他の著作にもぜひまたチャレンジしてみたい。